ここ数ヶ月、私は、家の中で頻繁に見かける、小さな茶色い虫に悩まされていました。最初は一匹、二匹だったのが、気づけばキッチンやリビング、時には寝室の壁まで、ちょこちょこと歩き回っています。チャタテムシでした。市販のくん煙剤を焚いても、徹底的に掃除をしても、その数は一向に減る気配がありません。そして、追い打ちをかけるように、ついにあの黒い悪魔、ゴキブリの幼虫までも見かけるようになってしまったのです。私はすっかりノイローゼ気味になり、「この家は、どこかおかしいのかもしれない」と、本気で引っ越しを考えるまでになっていました。そんなある日、季節の変わり目で、押し入れの中を整理しようと思い立ったのが、全ての謎を解くきっかけでした。押し入れの天袋、その一番奥に、私は、存在すら忘れかけていた数個の段ボール箱が積まれているのを、思い出しました。それは、数年前に前の家から引っ越してきた際に、荷解きするのが面倒で、そのまましまい込んでいた、学生時代の教科書やアルバムが詰まった箱でした。意を決して、そのうちの一番手前の箱を引っ張り出してみると、箱の表面には、うっすらとカビが生え、側面には、ゴキブリのフンらしき黒い点々がいくつも付着しています。嫌な予感を覚えながら、私はカッターでテープを切り、箱を開けました。その瞬間、私の目に飛び込んできたのは、まさに地獄絵図でした。箱の中は、湿気でふやけた本と、それに群がるおびただしい数のチャタテムシ、そして、隅の方には、あの、ゴキブリの卵鞘(卵のカプセル)が、いくつも産み付けられていたのです。全ての元凶は、この「開かずの段ボール箱」でした。ここが、私の家全体の虫の供給源、巨大な巣窟となっていたのです。私はその日、半泣きになりながら、全ての段ボール箱をゴミ袋に詰め込み、押し入れの隅々を掃除し、消毒しました。そして数週間後、あれほどしつこかった虫たちの姿は、嘘のように家の中から消え去ったのです。あの日の出来事は、私に教えてくれました。安易な「とりあえず保管」が、どれほど恐ろしい結果を招くかということを。そして、家の平和は、見えない場所の整理整頓から始まるのだという、単純で、しかし最も重要な真実を。