家の中で最も忌み嫌われる害虫、ゴキブリ。彼らとダンボールの関係は、私たちが想像する以上に深く、そして最悪です。もし、あなたが家にダンボールを溜め込んでいるとしたら、それは、ゴキブリのために、安全で快適な「産卵施設」を、わざわざ提供しているようなものなのです。ゴキブリ、特にクロゴキブリのメスは、子孫を確実に繁栄させるため、産卵場所の選定には非常に慎重になります。彼女たちが卵を産み付ける場所の条件は、「暗い」「暖かい」「適度な湿度がある」、そして何よりも「安全で、外敵に見つかりにくい」ことです。この全ての条件を、ダンボールは完璧に満たしています。特に、ダンボールの断面に見られる波状の中芯の隙間は、ゴキブリのメスにとって、まさに五つ星の産卵ルームです。この狭い空間に、彼女たちは「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる、小豆のような形をした、硬いカプセル状の卵ケースを産み付けます。この卵鞘は、乾燥や衝撃、そして多くの殺虫剤の成分からも中の卵を強力に保護する、天然の装甲シェルターです。一つの卵鞘の中には、20~30個もの卵が詰まっています。そして、この卵鞘が産み付けられたダンボールが、押し入れの奥や、家具の裏、あるいは物置の中などに長期間放置されることで、悲劇が起こります。安全な保育室の中で、卵はぬくぬくと育ち、やがて孵化した数十匹の幼虫が、ダンボールを拠点として、あなたの家の中へと散らばっていくのです。宅配便で届いたダンボールに、すでに卵鞘が産み付けられている可能性もゼロではありません。ゴキブリ対策の基本は、彼らに繁殖の機会を与えないことです。不要なダンボールは、家に長期間滞在させず、速やかに解体し、処分する。このシンプルなルールを守ることが、あなたの家が、次世代の悪夢を生み出す保育室となるのを防ぐための、最も確実な方法なのです。