それは、湿気がまとわりつくような八月の静かな夜のことでした。リビングで読書を楽しんでいた私は、視界の端を横切る素早い黒い影に気づきました。心臓が跳ね上がるのを感じながら視線を向けると、そこには壁に張り付いた一匹の巨大なクロゴキブリがいました。普段から掃除には気を配り、不潔な場所などない自負があった私にとって、その一匹の出現はあまりにも衝撃的で、屈辱的ですらありました。パニックになりながらも殺虫スプレーを手に取り、なんとかその個体を仕留めることができましたが、その後の私の頭の中は「なぜ一匹だけいるのか」「他にも隠れているのではないか」という不安で支配されました。その夜、私は一睡もせずに家中をライトで照らし、あらゆる家具の裏側を調査しました。しかし、どれほど探しても二匹目が見つかることはありませんでした。そこで私は考え方を変えました。このクロゴキブリは、私の家で生まれたのではなく、外からやってきたのだと。翌朝、私はベランダの網戸を点検しました。すると、サッシの端にあるゴムパッキンが経年劣化でわずかに浮いており、そこには指一本が入るほどの隙間ができていたのです。これこそが、あの夜の訪問者が利用した秘密の入り口でした。私はすぐに隙間テープを購入し、家中すべての窓とドアの建付けを補修しました。さらに、エアコンのドレンホースの先には防虫キャップを取り付け、換気口には細かいメッシュのフィルターを貼りました。一匹だけが現れたという事実は、私に「家は密閉された箱ではない」という当たり前の事実を突きつけてくれたのです。対策を施してから数週間、私は一匹の影も見ることなく、以前よりもずっと安心して過ごせるようになりました。あの時、ただ闇雲に恐れて何もしなかったら、今頃私の家は彼らの自由な通り道になっていたかもしれません。一匹の出現は不快な出来事ではありましたが、それは家が持つ物理的な弱点を教えてくれる貴重なアラートでした。今では、あの巨大なクロゴキブリが私の家の防衛意識を高めてくれた「厳しい教師」のようにさえ思えます。住まいを守るということは、目に見えない隙間を一つひとつ埋めていく地道な努力の積み重ねなのだと、身をもって体験した夏の記録です。
夏の夜に現れた巨大な訪問者への驚きと対策の記録