花の蜜を求めて健気に飛び回り、私たちの食生活に欠かせない蜂蜜をもたらしてくれるミツバチ。その丸っこい体と、穏やかなイメージから、危険ランキングでは下位に位置づけられがちです。しかし、そんなミツバチも、一度「敵」と見なした相手には、恐ろしい集団攻撃を仕掛けてくる危険な一面を持っています。一匹一匹の毒は弱くても、その「数の暴力」は、時にスズメバチをも凌駕する脅威となり得るのです。ミツバチが最も攻撃的になるのは、巣が外敵に襲われた時です。巣が破壊されたり、強い振動を受けたりすると、巣を守るために、何百、何千という働き蜂が一斉に飛び立ち、敵に対して総攻撃をかけます。ミツバチの針には「返し」がついており、一度皮膚に刺さると、簡単には抜けません。そして、ミツバチが針を刺したまま飛び去ろうとすると、針は腹部の内臓ごと引きちぎれて体に残ります。この時、針の根元からは、仲間に対して「ここに敵がいるぞ!」と知らせるための「警報フェロモン」が放出されます。このフェロモンに誘引され、他のミツバチたちが次々と集まってきて、同じ場所をめがけて攻撃を繰り返すのです。これが、ミツバチによる集団攻撃の恐ろしいメカニズムです。一箇所に集中して何十箇所も刺されると、大量の毒が体内に注入されることになり、アナフィラキシーショックを引き起こすリスクが非常に高まります。また、春先に見られる「分蜂(ぶんぽう)」という現象にも注意が必要です。これは、巣が手狭になった際に、古い女王蜂が、働き蜂の半分ほどを引き連れて新しい巣を探しに引っ越す行動で、その移動の途中で、庭木などに、蜂が密集した「蜂球(ほうきゅう)」と呼ばれる巨大な塊を作ることがあります。この蜂球は、一時的な休息場所であり、数時間から数日でいなくなりますが、非常にデリケートな状態にあるため、石を投げたり、棒で突いたりといった刺激は絶対にやめましょう。温厚な隣人も、一度怒らせると手がつけられない。ミツバチとは、そんな隣人との付き合い方に似ているのかもしれません。
集団の力ミツバチの危険な一面